家庭教育コラム 号外 い~わ~だより(R8.春) 「『ありがとう』『ごめんなさい』が言える子どもを育てるには」

●「10の姿」とは何か

 「幼児期の終わりまでに育ってほしい『10の姿』」をご存じでしょうか。
 これは、幼稚園教育要領や保育所保育指針などに示されているもので、小学校入学までに、遊びや生活を通して育ってほしい資質・能力を、10の具体的な姿としてまとめたものです。言い換えれば、小学校以降の学びの土台となる子どもの育ちの方向性を示しています。
 「10の姿」には、自立心や協同性など様々な育ちが含まれています。その中の一つが「道徳性・規範意識の芽生え」です。今回は、この姿に深く関わる「ありがとう」「ごめんなさい」という言葉について考えてみましょう。


●言葉は心から生まれる

 私たち大人も、本当に感謝したときや、心から申し訳ないと思ったときには、自然と言葉が出てきますよね。反対に、言いたくないのに言わされた経験を思い出す方もいるのではないでしょうか。
 子どもも同じです。
 形だけ言わせることと、心から生まれる言葉は、まったく別のものです。
 では、どうすれば子どもは自分から「ありがとう」「ごめんなさい」と言えるようになるのでしょうか。
 大切なのは、子どもが「本当に言いたくなる体験」を重ねることです。


●「道徳性・規範意識の芽生え」とは

 「道徳性・規範意識の芽生え」とは、友達と様々な体験を通して、次のような姿が育っていくことを指します。

 ・してよいことや悪いことが分かる
 ・自分の行動を振り返る
 ・友達の気持ちに共感する
 ・相手の立場に立って行動しようとする など

 家庭でいえば、日々の生活や遊びの中で、「よいこと」「悪いこと」に子ども自身が気づき、「分かる」ようになっていくことです。
 ここで大切なのは、「分かるのは子ども自身である」という点です。
 大人の役割は、結論を急いで教え込むことではありません。子ども自身がそうした心が育める体験ができる環境を整え、その過程に寄り添いながら、気づきを待つことが大切です。


●言葉では教えられない育ち

 とはいえ、つい口を出したくなる瞬間はありますよね。
 「ほら、こういうときには何て言うの?『ごめんなさい』でしょ。早く言いなさい」
 そんな風に言いたくなることもあると思います。
 そこには、周囲の目を気にする大人の思いが隠れていることもあります。でも、言葉だけが整っていても、本当の意味での「道徳性・規範意識の芽生え」にはつながりません。
 そんなときこそ、「今、この瞬間が大切な育ちの機会かもしれない」と意識してみてください。
 イラッとする気持ちや「教えなければ」という焦りをいったん手放し、深呼吸してみましょう。そして、子どもの表情や態度から心の動きを感じ取り、共感的に受け止めてみてください。
 失敗したとき、人を傷つけてしまったとき、誰かに助けてもらったとき――その瞬間に「悪かったな」「うれしいな」と心が動く経験こそが大切です。
 その気持ちに寄り添いながら、子ども自身が考え、行動できるように支えることで、「ありがとう」「ごめんなさい」は形だけでなく、心から生まれた言葉として根づいていきます。
 やがて、子どもが自分からその言葉を口にしたとき、大人はそっと微笑むだけで十分です。あるいは「そう言ってくれてうれしいよ」と返すことで、親子の信頼関係はさらに深まります。こうした日々の積み重ねは、子どもが困ったときに安心して相談できる関係の土台にもなっていくことでしょう。


●幼児期の時間を大切に

 幼児期は振り返ればあっという間ですが、子育ての渦中にいると、その一日一日が長く感じるものです。
 他の子どもと比べるのではなく、わが子の育つ力を信じること。そして、よいことも悪いことも含め、様々な体験を子どもとともに積み重ねていくこと。
 それが家庭にできる大切な役割です。
 そうして育まれた「ありがとう」や「ごめんなさい」は、子どもの一生を支える力となっていくはずです。

家庭で子どもを育むための8つのすすめから

今回は、金沢市教育委員会の家庭教育に関する指針『家庭で子どもを育むための8つのすすめ』の「2 きちんと守ろう社会のルール 大人が手本」や「6 伝えよう 心のこもった「ありがとう」」に関連するコラムでした。お時間のあるときに、『8つのすすめ』もご覧ください!

家庭で子どもを育むための8つのすすめ(PDFファイル: )

虫明 淑子 先生

北陸学院大学 教育学部 幼児教育学科 教授